2024年9月9日月曜日

7月27日「蟻」阿部浩さん(筑波蟻類蜂類研究所)



 阿部浩さんの強烈な記憶は、五斗蒔谷津の湿地でハラクシケアリの生態を地道に観察・調査され続けておられたことです。今回の談話会、最も身近な昆虫である「あり」、生態学的にはほとんど解明されていない、種名も整理半ばであることを知りました。アリの生きざまを知ることの大変さを、例えばクロナガアリでは冬3メートルもの深さに潜る、3mの深さを掘ることの難しさもリアルな体験として伝わってきました。モグラの巣などで行う、巣穴の形を知るための石膏流し、アリの巣では空気が漏れないので行えないそうです。アミメアリは巣をつくらず雄がいないなど、種ごとの説明もあったほか、宍塚で確認されたアリのリストも知ることができました。



【参加者の感想】


 毎月行われている土曜談話会、その道で長く携わってこられた方が講師。毎回新鮮な話が満載、贅沢な時間です。その割に参加者が少ないのが極めて残念、もったいない。(及川ひろみ)


家の中にも入って来るし、自宅の庭でも里山でも、最もたくさん見られる生き物が蟻ではないかと思いますが、観察会には参加してきたものの、自分から熱心に蟻を見たことがありませんでした。

生態系の中での役割は分解者。巣を持たない種類、巣が樹上、竹の中や、わずかな隙間など、巣もいろいろで、他の種類の働き蟻を奴隷にして自分の巣の子どもたちの世話をさせるサムライ蟻など、暮らし方も多様であることがわかりました。一つの単位が万を超える種類から、100以上と、少ない種類もあり、一口に蟻といっても 千差万別です。腹部?の別れ方から大きく2つの種類にわけられることも知ることができました。

 阿部浩さんは高校時代の生物部で蜜蜂を飼育したことから社会性昆虫に興味を持ち、蟻の研究を数十年にわたって続けてこられたということでした。宍塚の里山を子どもや若い人たちが面白いことにであえる場として保全していきたいですね。(阿部きよ子)





2024年6月15日「生物多様性の恩恵 水田の生き物」森本信生さん

【 内容】

・水田には、イネと雑草が生え、水もある。そして、それを食べ、田んぼを生活の場所とする生きものが出現する。


・水田には、絶滅が危惧されるような希少な生物がたくさん見られる。


・日本列島は、気候や地誌的な特徴も有り、世界でも生物豊かな地域である。


・水田をとりまく里山も、近年大きな変化が生じている。


・農地は、食料生産の場だけではなく、様々な役割が期待される。


・食料は食塩以外すべて生き物由来。様々な種類を食べることにより、豊かな食生活がある。



【参加者の感想】


たたき台として提供されるプレゼンテーションは毎回素晴らしい。参加者の世界は一層広がり、広がりは発表者の学の楽しさで満たされていく。(中略)以前の懇話会で発表された方の忘れられない言葉「私の専門ではありませんが、哲学的に申しますと、植物・昆虫・動物・微生物その他、どの分野に生じている問題もすべて私たち人間自身に戻ってくると申します」とおっしゃってプレゼンテーションを終えられたことを印象深く覚えています。(中略)多様性の暗い面の問題は、誰かさんの個人的気分の問題とは隔絶した重要な問題です。懇話会で聞いた、Oさんをはじめとする具体的で地道な取り組みのお話は一服の清涼剤のように深く心に響きました。アリガタカッタデス。                    江原栄治


水田を例に、益虫、害虫どちらともいえない多数の生き物の存在、また人の食べ物がみな生物であることなどが具体的に示され、わかりやすかったです。Sさんから出された、子どもたちに、カヤネズミを保全し、セイタカアワダチソウを抜く意味をどう説明すれば、の疑問は、とても大切なことだと思いました。生物間のつながりの複雑さを実感することが困難な中、生物多様性の危機を、多くの人たちにどう知らせるか。人間の利益の面からわかる説明として、食べ物だけでなく、生存にかかせない薬品も、目に見えない菌類も含む、生物由来であることを、わかりやすく言えるといいかな、などと考えてみたりしたけれど、人間本位で語ることそのものが、おこがましいことにも思えます。                  (A)







2024年5月18日「つくば市周辺の 子どもたちの育ちを考える」つくば子どもと教育相談センター代表 臨床発達心理士 穂積妙子さん

 
 穂積さんは、私たちの会の古くからの会員で、30年間にわたって、つくば市と、その周辺地域の子どもと保護者の教育相談に関わってこられました。当日用意していただいたレジメを掲載します。

【子育て中の参加者から】

・小学校で、英語、漢字なども、以前より学年ごとに習得すべき量が増えている。

・メールでいろいろな連絡が来る---スマホを手放せない。

・「教員の働き方改革」のため、この課題は家庭でやらせてください、という学校からの指示が多い。

 などの学校をめぐる状況が語られました。

                                    阿部きよ子



配布資料

1.幼児期の子どもたちの育ち


○保育園の園長先生の話・・・不安が強い、感情のコントロールが苦手の子どもが多い、発達特性がある子どもが増えた印象。


○心理士からみると・・・乳児期課題の、特定の親族や保育者との愛着形成がうまくできていない。それで幼児期課題の第3者への基本的信頼感が持てない。


○乳幼児期の発達課題の「保護者(親・保育者)といれば安心安全」「自分の周りの環境は少なくとも安心安全」と思える状況にない。


○早期教育の影響で、早くから「できるVSできない」の世界にとりこまれ「幼児的万能感」を持てず「できない」ことで自信を無くしている子どもが多く存在している。


○保護者が「ほかの子どもより早くできるようになること」に着目しすぎ、ゆっくり育ちを待つ、という姿勢を忘れている。

相談例】子どもが鏡文字を書くので心配、という相談をうけたが、その子どもは3歳だった。(3歳では右・左の区別は分からない)


○4から6歳は「遊びで育つ」と言われる時期だが、この時期の発達にふさわしい集団遊びが保障されていない。



2,児童期の子どもたちの育ち


○小学校、学童保育の大規模化

TX沿線の新設校、筑波山周辺の大規模一員校での諸問題・・・大きすぎることによる管理主義、子ども同士のトラブル、保護者組織の不在。


○小学校の教育内容の量的、質的変化・・・英語教育の高度化、プログラミング教育、グループ学習や発表力の重視。


○学習の遅れを心配する保護者の塾依存。

塾の成果主義、県立高校の不足問題


○保護者の経済力による教育格差の拡大。

・見えない貧困。親以外の祖父母、叔母などが相談にくるケース増加。

・生保家庭、教育扶助家庭が増え、地域での支援も広がってきているが、マンパワー不足や資金不足もあり支援場所の偏りが大きい。












2024年4月30日火曜日

2024年4月20日「宍塚に隣接する吉瀬の里山探訪」及川ひろみさん・ 阿部きよ子さん(当会)

 

【春の吉瀬を歩く】

案内人含めて6人で、フォンテーヌの森付近と鹿島神社を歩きました。

常磐高速道建設以前、宍塚の里山と一続きだった里山です。キャンプ場の南に天王池にむかう水路があります。霞ヶ浦の水が運ばれてくるU字溝から広い水域になっていくあたりは、柳の生える湿地を臨む美しい景観で、水の中を覗くと魚影もあり、ウグイスやヒクイナの声が聞こえてきました。



30年前くらいまでは、池の北側の車道はなく、私は細い道を歩いて天王池に釣りに通っていました。水面が広がり、猟期以外は鴨、カイツブリがよく見られました。今は、ヨシ、柳が茂り、開けた水面が僅かになってしまいました。

天王池の北側には、針葉樹の林、広葉樹の林にかこまれた谷津があります。そこで、サシバのカップルをみることができました。かつての谷津田の多くが休耕地となりましたが、台地の裾を西に曲がると土の水路が残り、田起こしされた田がありました。




 八坂神社で小休憩しました。上の室の神社です。八坂神社と県道の間は、以前はおもに畑でしたが、新しい住宅がふえました。天王池の方に戻る台地の上に、近年、ツリーハウス、自転車のコースなどが作られましたが、今年、東京の業者がグランピングの施設を作る計画だと聞いています。駐車場も作るであろうことも考えると、クサイチゴやジロボウエンゴサクが点々とさくこの台地の自然環境が激変することが懸念されます。


 車で鹿島神社に移動しました。土浦学園線のすぐ南側の台地の縁にある神社です。鳥居の先はおもに杉の林ですが、スダジイ、シラカシ、アラカシの古木があり、広い社域には社殿の他、石仏群、古墳があります。石仏の多くには江戸時代の年号が読み取れます。青面金剛、「おはぐろ様」(羽黒山信仰と関係か?)などのほか、子どもを抱いた石仏など、一つ一つみると、なかなか楽しいものです。そして、台地の北西の古墳のてっぺんに、古墳の石棺由来かと思われる石材を祠のようにくみたてた中に、一見モアイ像のような「鼻の大きな大日さま」がありました。江戸時代の初めごろ、羽黒山神社から来た人たちによってつくば・土浦地区のあちこちに建てられたものの一つで、宍塚の般若寺にある大日さまと似ていますが、こちらは小さ目です。この石仏の説明板も建てられていました。この鹿島神社では石仏のいずれにも、2つの竹の筒を麻紐で結んだものが懸けられています。花を供える筒と思われます。吉瀬の氏子の皆さんが、この神社をとても大切に守ってこられたことが感じられました。



 定期的な手入れのおかげで、林床の植生は豊かで、ちょうど、ジュウニヒトエがあちこちに咲いていましたし、7月半ばになれば、ヤマユリの園となることでしょう。

 



 吉瀬には斜面を利用した立派な庭のある民家があったり、台地の縁が急な崖になっているなど、宍塚にはみられない景観があります。

 宍塚だけでなく吉瀬まで拡大してみると、この地域は地形的にも動植物の面でも本当に多様性に富む里山であることを確認できたと思います。             


阿部きよ子








2024年2月17日「保全団体の持続要因と課題(宍塚を事例に)」山田優芽さん( 筑波大学生)

 

●題目
「土浦市宍塚における里山保全活動の持続要因と課題 ―参加意識と関係性に着目して―」

●目的

里山がこれからどう保全されるべきか考えるには、保全団体の取り組みや持続性を明らかにし、傾向や課題から将来像を考察することが重要である。宍塚地区を対象に、保全活動の特性、参加者の活動要因とプロセス、地域住民との関係性など幅広く分析し、考察する。

●調査の方法

・インタビュー調査(保全団体の活動に参加する45人、地域住民13人)

・アンケート調査(親子向けイベント及び学生サークルを目的に来る参加者が対象)

・参与観察

・文献調査


●結果

①保全活動への参加プロセスと要因


下図参照。

参加者はレクリエーションや里山での学び、子どもの学習環境や遊び場・収穫の場など、体験を享受する活動を目的として訪れる。活動経験から「この場所を守りたい」という思いが明確化し、宍塚を守る意識につながる。もしくは、活動経験から、故郷の景色や記憶の中の自然景観を思い起こすことで「この場所を昔のように残したい」という思いが明確化し、宍塚を守る意識につながる。そのような参加者は宍塚を守る活動を続ける中で、宍塚の里山を「伝える」活動に発展する(宍塚の良さや保全価値を伝える〈宍塚型〉と環境教育や自然農業などの自分の伝えたいことを伝える場として宍塚をフィールドにする〈持論型〉に分けた)。これらの「伝える」に至る参加者が、体験を享受できる場を作り出し、新たな人を引き付ける循環がみられた。このような保全活動の継続と発展過程は、来訪者同士のつながり(「よそ者同士の縁」)によってより強化されている。


ダイアグラム

自動的に生成された説明
  図 「保全団体の活動に参加するプロセス」の結果図(聞き取り調査を基に作成)



②参加者が感じている課題


聞き取り調査によれば、保全団体や保全団体を取り巻く環境への懸念は『組織内部の問題』『外部要因の問題』『活動場所の問題』『活動内容の問題』に分けられる。問題の中心は「世代交代・後継者育成の難しさ」である。「人手不足」「ボランティア労働の限界」「運営資金集めに苦戦」「運営の大変さ・責任」といった諸々の問題が「世代交代・後継者育成の難しさ」に帰結している。「人手不足」は、「活動の意義やメリットを感じない」ことで「リピーターが増えない」ために問題が加速する。 

中心メンバーの仕事の負担が重いことが指摘され、特に会計や会報制作などの事務的業務では、無償で働くことの限界を指摘する声もあった。そのような「大変だ」というイメージが、新たな提案や積極的な活動を阻害している面もみられ、次世代に引き継ぐ業務量の見直しが求められる。図 「保全団体の活動に参加するプロセス」の結果図(聞き取り調査を基に作成)



③地域住民から見る保全団体との関係性

 

地域住民による保全団体への意見を肯定的反応と否定的反応に分けた。否定的反応とは、悲観的、批判的な声を意味するものではなく、「肯定的と言えない意見」として便宜上まとめたものである。

肯定的反応としては「地域住民との関わりを大切にしている」「草刈りなどの土地の維持管理」「よそ者により町に活気が出る」「活動内容への賛同・理解、活動の現状維持」「物事を教えてくれる、知識がある」「地域内の緩衝材としての役割」などがある。

否定的反応としては「地域との繋がりの不足」「地域内で否定的な声があること配慮して全肯定はしないこと」「訪問者のマナーが気になること」などがある。肯定的反応で「地域住民との関わり」が評価された一方で、「地域との繋がりの不足」が挙げられるのは、「最近はお茶にも呼ばれなくなった」などこれまでの肯定的反応の反動といえる。

地域の開発計画への考え方としては、保全価値は見出しているものの、開発もある程度取り入れてほしいというのが総意である。地域の活気を考えた上で開発は必要であるという。 里山を壊さない範囲での鉄道延伸計画には概ね賛成している。太陽光パネルには景観的な問題から懐疑的である。



④まとめ

 

保全団体の活動は「人の縁」に支えられている。それは、保全団体内の繋がりに加え、地域住民や地権者との間にも形成されている。そして、各主体がコミュニティを形成した際に、各々の活動場所が確保し続けられたことにより、多様な活動が長期にわたり継続してきた。地権者や地域住民の理解を得るよう努めてきたことで、ほとんどが私有地である里山で活動を続けることができた。


宍塚の保全団体内においては、組織的な中心メンバーが、参加者の諸活動を支えている構図がある。一方で、不定期に草刈りをする人や自分のペースで農業をする人など、中心核に属さないまとまりや主体も見られ、それらの人たちも保全団体を支える重要な存在になっている。

次世代の担い手として期待されていることを感じている層は、上の世代と同じことができるかに不安を感じている。就労世代、子育て世代にあることから、世代間・同年代の参加者間での交流の機会が持ちにくいものの、同世代のコミュニティ形成も確認された。そこでは、従来の活動の枠にこだわらず、自分たちがやりたいことに応じたコミュニティが形成されており、義務感や負担感を感じずに保全団体地域を守る新たな基盤となっていた。

しかし、諸活動がゆるく続けられても、それを支える中心核が維持されなければ、外交的な交渉などの実務にあたる活動、例えば土地管理の面で破綻してしまう。地権者との関係維持に関わる労力は長年の信頼関係の蓄積による部分が大きく、新しい手法を取り入れて成功する領域とは言い難い。中心核の活動はボランティアに全任されており、組織が大きくなるほどにその負担感が大きくなる構図が考えられる。これまで保全団体が重視してきた理念を守ながらも、持続可能な方法で引き継いでいくことが不可欠である。



●御礼の言葉


調査で大変お世話になった「宍塚の自然と歴史の会」で出会う皆様、宍塚地区の地域住民の方々に心より御礼申し上げます。

 聞き取り調査に快く応じてくださるだけでなく、励ましの言葉やご自身の経験からのアドバイスなどもいただきました。一緒に活動させていただけることも多く、人生の先輩ともいえる皆様からは、これから生きていく上で大切なこともたくさん学ばせていただきました。調査方法が未熟で、ご迷惑をおかけしたこともありました。そんな私のことをいつも温かく迎えてくださったことに感謝申し上げます。

半年以上調査活動を続け、このような形でまとめさせていただきましたが、宍塚は、それだけでは全く足りないほど大きなフィールドだと感じます。今回の私の卒業論文調査では、地域に根ざす皆様を見習い、「一緒に活動しながら調査する」「同じ立場に立ってみる」ことを大切にしてきました。力になりたいとお手伝いをしたつもりでしたが、終始私がお世話になりっぱなしでした。

この卒業論文ができたのも、ご協力いただいた皆様のご厚意があってこそだと感じています。本当にありがとうございました。


筑波大学卒業生 山田優芽




2024年3月16日土曜日

2024年1月20日「イモムシと植物」今野浩太郎さん( 農業・食品産業技術総合研究機構)

 

1月20日(土)、農研機構の今野浩太郎先生をお迎えして標記の土曜談話会を行いました。副題が ‘食うか食われないかの攻防関係から、緑の森の謎、多い虫少ない虫の謎まで’ という、内容が広範囲のものでしたので、端折ってですがご紹介します。


イモムシと植物


植物が動物に食べられないようにする戦略として、トゲなどで防御することがあるが、もっと巧妙な仕掛けで対処することが分かってきている。その例はイモムシが葉っぱを食べる(攻撃する)と、この攻撃の信号から葉の成分に毒物を供給する、あるいは消化を妨げる成分を産生して、巧みにイモムシの攻撃を防除する機構が明らかになってきているようだ。なので、植物は一方的に食べられてしまうということに甘んじているわけではないようだ。ところが、そうした植物の防御機構に対して、イモムシの方も対処戦略を備えることがあるようだ。紹介していただいた一例がイチジクを食樹としている暖かい地方にいるイシガケチョウ、この幼虫はイチジクの葉裏にある乳液供給脈をまずかじっておいてからおもむろに葉っぱを食べるというのだ。イチジクのあの白い乳液には恐らくあの防御エキスが含まれているのであろう。



緑の森の謎


今野先生は、こうした植物と虫の関係をもっと大きな生態系の機構に当てはめて、論を展開しておられるようだ。どうもこれは、植物、草食動物、肉食動物、という生態系ピラミッドの構造を基本として、この間の食う食われる関係の数値解析を基とした論の展開のようだ。この解析から、陸上の森では、動物だらけの水圏の生態系や陸上でもサバンナの生態系と違って、なぜ緑の森が残るのかとの解を見つけておられるようなのだ。森林生態系では虫の成長速度が速いのでそういう解となる、というように聞いたような気がするが、正確ではないかもしれない。



モンシロチョウの大発生


モンシロチョウは他のチョウ種と較べて、とくにキャベツ類を食するケースではかなり成長速度が速い。この成長速度を基に作成した数理モデル式はオーストラリアでのモンシロチョウの大発生と符合することとなり、今野先生の名声は世界に轟いた。(とは明確に言われておりませんが、恐らくそうであったのだと思います。)



世界の昆虫の話題


昆虫の数がこのところかなり減っているということが、世界的に大きな話題となりつつある。これがどうしてなのか、何が原因となっているのか。これを考えていくときに、生き物の量というものを数値的に捉えていくことがまず重要であり、数式でそのダイナミックスを検証していく作業が大きなヒントを与えてくれると思われる。

 


 今野先生は、ここにご紹介したようにイモムシと植物の食う食われる関係の中で生じている巧妙な相互作用をミクロな化学分析の手法で明らかにすると同時に、森林生態系の現象を数理モデルで記述することにより、今後の生態系の動向のマクロ予測にも取り組まれておられます。先生の研究の進展の一端を、私たちも少しは勉強していかねばと思いました。どうも有難うございました。                      


佐藤和明








2024年2月8日木曜日

2023年12月16日 「森林と昆虫」 北島博さん(森林総合研究所 森林昆虫研究領域) その2

 

 昆虫は植物と深く関わりのある生物で、植物の種数から寄生種数を推定すると数千万種が存在すると言われています。森林は高さがあるためマンション的な空間と言え、そこに棲む昆虫の種数も多くなります。これは森林を利用する人間から見ると多くの害虫がいるとも言えます。森林害虫とは葉や幹を食べる、吸汁する、葉や根に寄生して変形させるといった方法で生きている植物を害するものを指します。この他、イラガやチャドクガのように人に直接害を及ぼすもの、見ると精神的被害を受ける不快昆虫も含まれます。

 大きな森林病虫害には在来種マツノマダラカミキリを媒介者とした北米からの外来種マツノザイセンチュウによる松枯れ(森林法定害虫)、カシノナガキクイムシによるナラ菌感染のナラ枯れがあります。どちらも薬剤散布、被害木の焼却、殺虫剤の打ち込みによって抑えられますが、害虫の生活史をよく知って使わないと効果がありません。マツやコナラを利用するために防除するのか、見過ごして樹を無くし林の遷移に任せるのか、それは林を利用する地域住民の考えを基本にして決めることになります。

 

 森林の利用は樹そのものだけでなく、生態系サービスにも注目されています。例として、ソバ栽培地の周りに森林があると送粉昆虫が多く受粉率が高くなるという研究が挙げられていました。


 宍塚でも近年ナラ枯れ病が発生し、会員が駆除対策に当たっています。他地域では3~5年で収まりを見せており、宍塚も時間経過とともに落ち着いてくるものと思われるとのお話でした。関東の落葉カシ林は手を入れずにいると遷移によってシラカシなどの常緑広葉樹林になってしまいます。そしてこの極相林は自然にコナラ林に戻ることはありません。日本人の生活様式の大きな変化に伴い、宍塚も生活に添ったコナラやクヌギの利用が無くなった現在、どのような環境や樹種にしていくか、害虫防除を含めた維持管理方法を地域で考えていくことが必要となってきています。


今回の談話会を拝聴し、地域住民を林の生物作用のひとつに含めるか否かにより、林は大きく姿が変わるのではないかとの感想を持ちました。講演後の質疑応答では近年新規移入した外来カミキリの問題についてもご説明いただきました。ありがとうございました。                    

吉武直子






7月27日「蟻」阿部浩さん(筑波蟻類蜂類研究所)

  阿部浩さんの強烈な記憶は、五斗蒔谷津の湿地でハラクシケアリの生態を地道に観察・調査され続けておられたことです。今回の談話会、最も身近な昆虫である「あり」、生態学的にはほとんど解明されていない、種名も整理半ばであることを知りました。アリの生きざまを知ることの大変さを、例えばクロ...