2024年4月30日火曜日

2024年2月17日「保全団体の持続要因と課題(宍塚を事例に)」山田優芽さん( 筑波大学生)

 

●題目
「土浦市宍塚における里山保全活動の持続要因と課題 ―参加意識と関係性に着目して―」

●目的

里山がこれからどう保全されるべきか考えるには、保全団体の取り組みや持続性を明らかにし、傾向や課題から将来像を考察することが重要である。宍塚地区を対象に、保全活動の特性、参加者の活動要因とプロセス、地域住民との関係性など幅広く分析し、考察する。

●調査の方法

・インタビュー調査(保全団体の活動に参加する45人、地域住民13人)

・アンケート調査(親子向けイベント及び学生サークルを目的に来る参加者が対象)

・参与観察

・文献調査


●結果

①保全活動への参加プロセスと要因


下図参照。

参加者はレクリエーションや里山での学び、子どもの学習環境や遊び場・収穫の場など、体験を享受する活動を目的として訪れる。活動経験から「この場所を守りたい」という思いが明確化し、宍塚を守る意識につながる。もしくは、活動経験から、故郷の景色や記憶の中の自然景観を思い起こすことで「この場所を昔のように残したい」という思いが明確化し、宍塚を守る意識につながる。そのような参加者は宍塚を守る活動を続ける中で、宍塚の里山を「伝える」活動に発展する(宍塚の良さや保全価値を伝える〈宍塚型〉と環境教育や自然農業などの自分の伝えたいことを伝える場として宍塚をフィールドにする〈持論型〉に分けた)。これらの「伝える」に至る参加者が、体験を享受できる場を作り出し、新たな人を引き付ける循環がみられた。このような保全活動の継続と発展過程は、来訪者同士のつながり(「よそ者同士の縁」)によってより強化されている。


ダイアグラム

自動的に生成された説明
  図 「保全団体の活動に参加するプロセス」の結果図(聞き取り調査を基に作成)



②参加者が感じている課題


聞き取り調査によれば、保全団体や保全団体を取り巻く環境への懸念は『組織内部の問題』『外部要因の問題』『活動場所の問題』『活動内容の問題』に分けられる。問題の中心は「世代交代・後継者育成の難しさ」である。「人手不足」「ボランティア労働の限界」「運営資金集めに苦戦」「運営の大変さ・責任」といった諸々の問題が「世代交代・後継者育成の難しさ」に帰結している。「人手不足」は、「活動の意義やメリットを感じない」ことで「リピーターが増えない」ために問題が加速する。 

中心メンバーの仕事の負担が重いことが指摘され、特に会計や会報制作などの事務的業務では、無償で働くことの限界を指摘する声もあった。そのような「大変だ」というイメージが、新たな提案や積極的な活動を阻害している面もみられ、次世代に引き継ぐ業務量の見直しが求められる。図 「保全団体の活動に参加するプロセス」の結果図(聞き取り調査を基に作成)



③地域住民から見る保全団体との関係性

 

地域住民による保全団体への意見を肯定的反応と否定的反応に分けた。否定的反応とは、悲観的、批判的な声を意味するものではなく、「肯定的と言えない意見」として便宜上まとめたものである。

肯定的反応としては「地域住民との関わりを大切にしている」「草刈りなどの土地の維持管理」「よそ者により町に活気が出る」「活動内容への賛同・理解、活動の現状維持」「物事を教えてくれる、知識がある」「地域内の緩衝材としての役割」などがある。

否定的反応としては「地域との繋がりの不足」「地域内で否定的な声があること配慮して全肯定はしないこと」「訪問者のマナーが気になること」などがある。肯定的反応で「地域住民との関わり」が評価された一方で、「地域との繋がりの不足」が挙げられるのは、「最近はお茶にも呼ばれなくなった」などこれまでの肯定的反応の反動といえる。

地域の開発計画への考え方としては、保全価値は見出しているものの、開発もある程度取り入れてほしいというのが総意である。地域の活気を考えた上で開発は必要であるという。 里山を壊さない範囲での鉄道延伸計画には概ね賛成している。太陽光パネルには景観的な問題から懐疑的である。



④まとめ

 

保全団体の活動は「人の縁」に支えられている。それは、保全団体内の繋がりに加え、地域住民や地権者との間にも形成されている。そして、各主体がコミュニティを形成した際に、各々の活動場所が確保し続けられたことにより、多様な活動が長期にわたり継続してきた。地権者や地域住民の理解を得るよう努めてきたことで、ほとんどが私有地である里山で活動を続けることができた。


宍塚の保全団体内においては、組織的な中心メンバーが、参加者の諸活動を支えている構図がある。一方で、不定期に草刈りをする人や自分のペースで農業をする人など、中心核に属さないまとまりや主体も見られ、それらの人たちも保全団体を支える重要な存在になっている。

次世代の担い手として期待されていることを感じている層は、上の世代と同じことができるかに不安を感じている。就労世代、子育て世代にあることから、世代間・同年代の参加者間での交流の機会が持ちにくいものの、同世代のコミュニティ形成も確認された。そこでは、従来の活動の枠にこだわらず、自分たちがやりたいことに応じたコミュニティが形成されており、義務感や負担感を感じずに保全団体地域を守る新たな基盤となっていた。

しかし、諸活動がゆるく続けられても、それを支える中心核が維持されなければ、外交的な交渉などの実務にあたる活動、例えば土地管理の面で破綻してしまう。地権者との関係維持に関わる労力は長年の信頼関係の蓄積による部分が大きく、新しい手法を取り入れて成功する領域とは言い難い。中心核の活動はボランティアに全任されており、組織が大きくなるほどにその負担感が大きくなる構図が考えられる。これまで保全団体が重視してきた理念を守ながらも、持続可能な方法で引き継いでいくことが不可欠である。



●御礼の言葉


調査で大変お世話になった「宍塚の自然と歴史の会」で出会う皆様、宍塚地区の地域住民の方々に心より御礼申し上げます。

 聞き取り調査に快く応じてくださるだけでなく、励ましの言葉やご自身の経験からのアドバイスなどもいただきました。一緒に活動させていただけることも多く、人生の先輩ともいえる皆様からは、これから生きていく上で大切なこともたくさん学ばせていただきました。調査方法が未熟で、ご迷惑をおかけしたこともありました。そんな私のことをいつも温かく迎えてくださったことに感謝申し上げます。

半年以上調査活動を続け、このような形でまとめさせていただきましたが、宍塚は、それだけでは全く足りないほど大きなフィールドだと感じます。今回の私の卒業論文調査では、地域に根ざす皆様を見習い、「一緒に活動しながら調査する」「同じ立場に立ってみる」ことを大切にしてきました。力になりたいとお手伝いをしたつもりでしたが、終始私がお世話になりっぱなしでした。

この卒業論文ができたのも、ご協力いただいた皆様のご厚意があってこそだと感じています。本当にありがとうございました。


筑波大学卒業生 山田優芽




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